故宮博物院(★☆☆,台北)

博物館

 台北旅行でぜひ行きたかった「故宮博物院」。博物館が大好きで海外含めてあちこちの博物館へ行きましたが、それらと比べて完全に「異質」、想定外の場所でした。

 世界○大博物館の一つにも数えられる(「3大博物館の一つ」と称する博物館が4つ以上あるので、とりあえず「○大」)、台北の故宮博物院。収蔵品の量は到底1日では回りきれる量では無いし、また入場制限などもある様なので、オプショナルツアーで申し込み。

 最初にオーディオガイドを全員装着(団体客は義務付けられているそう。多分大声で説明されると迷惑だから、でしょうね)した後、まずは入口の孫文像前で、現地添乗員さんから故宮博物院の概要説明。曰く、

  • 故宮博物院収蔵品は、もともとは代々の中国皇帝の持ち物/秘蔵品で、一般人の目に触れることは無かった。
  • それを今見られるのは「孫文先生」が国を皇帝のものから人民のものへ変えたから。だから「先生」は大恩人。
  • 元々全て紫禁城にあったけど、中華民国政府を台湾へ遷す際に精選して運んできた。だからここにある品は全て「選び抜かれた一流品」のみ。紫禁城に残った品は「二流品」のみで、「本物」はここでしか見られない。

う~ん、聞きようによっては大陸の人達は怒ってしまうかもしれないけど、歴史的経緯は略あっている様です。

 続いてセキュリティゲートを通って展示エリアへ入場。貴重な品が多いところなので「金属探知機」や「手荷物チェック」は当然として(ルーブル等もそうだし)、「リュックサック持ち込み禁止」に要注意(添乗員さんの言い方では荷の大小よりも「背中に背負う」という状態自体を問題視している感じ)。
 その後添乗員さんの説明付で1.5時間ほどかけて「特に重要な収蔵品」を見て回り、その後は一旦解散して30分ほど自由に館内を見学しました。

 最も有名な「翠玉白菜」は残念ながら出張不在(!)だったためNo.2の「肉形石」からスタートして、最初は祭事などで使われた装飾品や翡翠の印章など、そして金属の壺、焼き物と続いて後半は細かい細工品の数々。
 どれも珍しく、また美しいモノ、良くできたモノなどあるのですが、添乗員に連れられて館内を巡っている間に、どんどん違和感が膨らんできました。ここは本当に「博物館」か…?

 通常の博物館/美術館は、歴史や文化などのストーリー軸に沿って文物が集められ(あるいは整理し直され)、それらを見る時には同時にその時代背景や文化・技術と合わせて知ることができる場所だというのが私の理解(所謂「珍品館」とは違う)。ところが、ここにある収蔵品は(全部ではないのかもしれませんが)、背後に時代背景や文化など何も見えず、ただ「モノ」がポツンとあるだけ、の様に感じます。

 例えば、複雑な模様が掘り込まれた象牙の球が何層も入れ子になっている「飾」がありました。しかも一切継ぎ目など無く、1つの象牙の塊から削り出したものだそう。同じく象牙製で、小さな2つの筒の間を太さ2mm程度の細い鎖でつないだものもありました。これも、鎖とセットで1つの塊から削り出したものだそう。
 また複数の引き出しがついた小さな文箱の様なものがいくつもありました。各引き出しには、オママゴトにも使えないくらいとても小さな、でも非常に精巧に作られた茶道具や文具のミニチュアがキレイに納まっていました。
 どれもとても素晴らしい出来で、工芸品として非常に優れたものだとは思うのですが、どれも「製作時期不明」「作者不明」。また、これらが作られた理由は「皇帝が見て楽しむため」(代々皇帝は普段紫禁城から出歩くことができなかったため、部屋の中でこの様な「モノ」をそっと取り出して眺めるのが唯一の楽しみだったそう)。
 例えば当時流行ったものの中で特に精巧に作られたものが残った、とかではなく、最初から皇帝へ納めるために作られたもので、時代や文化と何のつながりも無く、結果後世に何も伝えず、ただ「モノがある」という事実だけ。革命が無ければ「ある」ことすら世間に知られることは無かったのかも。

 また、添乗員さんが説明していた「重要/貴重」の評価軸(=中国国内での一般的な評価軸?)自体も特殊。鉄の壺の良し悪しが「内側に刻まれている文字の数」で評価されていたり、小さな陶器の器が「貫入が全く入っていないものは世界唯一だから素晴らしい」とか…(そのレプリカがソープトレイとして売られていたのは最早冗談としか思えない)。
 「歴史的価値」や「文化的価値」あるいは「美意識」とかではなく、「作るのが難しい=良いもの」という考え方なのだと思うのですが、それにしては作者や製法、技術などには何も触れず、何も残っていない。むしろ「難しいものを作るために技を磨いた」というよりも「無数の職人にひたすら取り組ませて成功した1品だけを残した」という感じがプンプン。

 なんかそんなことを考えていたら並んでいるものがどんどんつまらなく見えてしまい、途中からすっかり興味を失ってしまいました。
 この故宮博物院がたまたま「そういうところ」だったというよりも、そもそも中国という国自体が歴史や文化とか、またそれを支える庶民の生活には何も関心が無いんだろうな、と思えてしまい、妙に納得。

 そうは言っても置いてある物品の「精巧さ」は素晴らしいので、ぜひ一度は行くべき場所であることは間違いありません。

hisashi

hisashi

長年の間にあちこちの引き出しに少しずつ溜まったガラクタを ただただ、適当にひっくり返して並べてみました。

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